大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)1070号 判決 1969年1月30日

上告人

正源寺政吉

被上告人

松尾治一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一及び二について

所論のうち、違憲をいう部分は、その実質は、原判決につき審理不尽の違法があることをいうものにすぎないところ、所論の事実をもつて原判決に審理不尽の違法あるものとすることはできない。それ故、論旨は理由がない。

同三について。

原判決は、所論のごとく証拠の表示を誤つたものではない。それ故、論旨は理由がない。

同四について。

所論は、本件各手形の振出人として表示された有限会社松尾商会が実在の有限会社カネ一松尾自転車商会のいわゆる取引上の通称であり、右会社が本件各手形の振出人としての責を負うべきであるとした原審の認定、判断を争うものであるところ、本件各手形に振出人として記載された有限会社松尾商会なる名称は、実在の訴外会社である有限会社カネ一松尾自転車商会がその営業活動の実態の変化に伴い、手形取引も含めて、取引上自己を表わすために使用している名称であつて、本件各手形は、被上告人が右訴外会社の代表取締役として振り出したものであることなど原判決認定の事実関係は、挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができるところ、会社が手形の振出人として記載する名称は、必ずしも登記をへた商号によらなければならないわけではなく、取引上自己を表わすために通常使用されている名称によることも妨げないものと解されるから、右認定の事実関係に照らせば、本件各手形については、右実在の会社である訴外有限会社カネ一松尾自転車商会が振出人として支払の責に任ずべきものであると解すべきである。従つて、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

上告人の上告理由

四、民法九〇条の違反

(一) 有限会社松尾商会は登記簿不存在であることは原判決指示の通りである、そこで本件約束手形が適式に振出されたのであるから振出人たる被上告人松尾治一が手形法に従い決済すべきもので有るにもかゝはらず、原判決は有限会社カネ一自転車商会名儀を使用して約束手形の決済(決済していた物的証拠はなにも無い)をしていたと断定するが約束手形の決済金を有限会社カネ一自転車商会が出して決済しようが其の他の会社が決済しようが手形の決済が行なはれゝば有限会社松尾商会が決済した事になるが問題は不渡を起した時に本件の如く事件となるので、此の場合不渡りの責任は振出手形に記名押捺した被上告人即ち手形振出人が手形法の定める処に従い決済するのが一般の慣習である。

(二) 而して有限会社松尾商会と有限会社カネ一自転車商会は自から別人格である事は登記簿上明かであるにもかゝはらず別人格を同一人格に作り上げる様な判決理由は公序良俗の違反と云はなければならない。

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